金儲け

 金儲けほど仕悪しきことはなく、損ほど仕易きことはなし、併し大損は大抵の苦労ではなし人間は賢きやうにて、至って愚かなるところあり。僅の日合に迷ひて、大分の元金取られ、僅の利を取らんとて代物を持運び、骨折辛労しても懸金滞り、五十匁百匁の売懸の滞りにて大きな声を出し、顔赤めて掴み合う人多し。金に詰まりて死ぬものは、やうやう銭五貫か十貫か、大金はなきものなり。五十貫、百貫の損する人は死ぬこともなく、高声に言い合わぬものなり。何百貫、何千貫という損には、袴をつけ結構な酒宴をしつつ損するなり。

(『商人生業鑑』)

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